頼まれ事は試され事
4年ほど前に読んだ本で非常に印象に残っているのが、「海洋温度差発電」の世界的権威上原春男先生の著書で『成長するものだけが生き残る』である。この本で上原先生は、IQ(知力)とEQ(忍耐力、行動力、熱意、やさしさで表される人間力)がかけ合わさってできるのが人間の能力だと書いておられる。また、EQを表すものの中に「やさしさ」があるが、この「やさしさ」こそが、人間の度量と成長力を測ることができる指標であると主張されている。
先生は、長年、人のやさしさを見る「実験」を行なってこられた。研究や実験で忙しそうにしている学生に、わざと「お腹がすいたから、パンを買ってきてくれないか。」とお使いを頼むのだそうだ。それに対して学生がどんな反応を示し、将来どのように成長していくかを多数のサンプルから統計を取って
①「はい。すぐ行ってきます」と二つ返事ですみやかに席を立つ
②「わかりました」とやりかけの仕事をすぐに一段落させてから行く
③「これをしてから行きますから、少し待ってください」と当面の仕事を優先させる
④いかにも気乗りのしない様子で、黙ってしぶしぶ席を立つ
⑤「なんで、私が先生のパンを買いにいかなくてはいけないのですか」と食ってかかり、結局行かない
の5つのパターンに分類された。その結果だが、①と②のようなやさしい反応を見せた学生は、ほとんど成績も伸び、いい仕事に就き、満ち足りた人生を送ったという。逆に④や⑤のような反応をした人は、仕事を転々としたりして、あまり幸せそうな人生を送っていないということであった。
この本を読んで、私は反省することしきりであった。若い頃から多くの頼まれごとをしたものだが、④や⑤のような反応をしていなかったかと振り返ると冷や汗が出る。人間としての度量の小ささを今更ながら反省する次第である。
かつて、中村文昭さんの講演を私は3回聴く機会に恵まれた。中村文昭さんは、三重県伊勢でレストランを運営し、感動的なレストランウエディングなども積極的に展開されている企業のオーナーである。全国で年間300回を超える講演活動を行なっており、熱烈なファンも多い。私も良く知る居酒屋てっぺんの大嶋さんとも懇意にされていて、一緒に講演会をされたりもしている。彼は、よく「頼まれ事は、試され事」とおっしゃっているが、事を頼まれた時は、頼んだ人を感動させるくらい本気で取り組むのだそうだ。これこそ上原先生がおっしゃる「やさしさ」であり、度量の大きさである。そういう意味では、私はまだまだ修行が足りんといったところだ。人生は常に修行である。人生はどこまで成長できるかに挑戦する道場である。頼まれごとには、人の期待を上回るように本気で取り組むように心掛けていきたいものである。
平成21年2月16日