見えない資産 | アルカスコーポレーション/Arcus Corporation

見えない資産

『理念と経営』経営者の会という定期的な会合を開催している。この会は、『理念と経営』という中小企業の経営者向けの月刊誌を教材にしていろいろな角度からディスカッションをしながら学ぶ勉強会である。私が支部長を拝命している「となみ野支部」は、砺波市、南砺市に基盤を置く企業を中心に8社で構成されており、多忙な経営者がメンバーなので毎回参加者は3~5社であるが、毎月熱心なディスカッションが行われている。

 その中にK社長という人物的にも経営者としても優れた方が参加されている。彼は、日経ベンチャーの10月号にも登場しているが、我が社も学んだ人事評価制度をいち早く導入し、それを我々に紹介してくれた方だ。

 そのK社長と毎月ディスカッションしていて感じるのは、ビジネスモデルの大切さだ。もちろん彼は、我が社でも活用している「成長シート」と日報を活用して、経営理念と経営方針を部下と共有することにかなりの時間と労力をかけている。従って、部下が会社が何を目指し、何をすれば自分が成長して評価されるかをしっかり認識して仕事をしている。つまり、キャリアパスを明確にしているために「部下の成長=会社の成長」という図式が成り立っているのだ。これは大変素晴らしいことであるが、実はなかなか難しい。我が社では、まだまだ試行錯誤の連続である。しかし、彼が特に素晴らしいと思うのは、本業が価格競争に陥りやすいということを見抜いて新たなビジネスモデルを次々に構築していることである。

 皆さんもご存知だろうが、流通業界ではM&Aによる規模拡大競争が凄まじい。人口の減少という難しいトレンドに景気の減速が加わり、一方では店舗の閉鎖も始まっている。売っているものが大手も中小も変わりがない中で、中小の企業が生き残るには勇気を持ってビジネスモデルを変えるしかないのである。K社長は、自社が価格決定権を持つにはどうしたら良いかという視点で考えていろいろなアイディアを生み出し、今まで見たことも無いビジネスモデルを構築中である。大変なアイディアマンだと感心することしきりである。前回の例会では、また新たなビジネスモデルを披露していただいたが、彼の目指す新たな2つのビジネスモデルは、大きな可能性を秘めており、今後大いに注目したい。

 事業を成長させるには、「ビジネスモデル」と「マーケティング」の2つが揃っていなくてはならないと言われている。我が社でも「公共事業に過度に依存しない」「できるだけ価格競争しない」というタブーに挑戦することをもとにビジネスモデルの変更とマーケティングの改革を約10年かけて行ってきた。その結果、土地を切り口として賃貸マンション、テナントなどを地主や投資家に提案する土地活用事業、中古住宅を核とした住環境事業に集約され、それらの売上比率が伸びてきている。これらが我が社の強みであり、今後も外部の激変に合わせて常に磨き改善していくことが欠かせないと認識している。

 K社長にしても、我が社にしても、現状のビジネスモデルに危機感があったからこそモデルの変更に勇気を持って挑戦してきた。数々のタブーに挑戦してきたからこそ有望な新たなビジネスモデルに辿りついたのであり、タブーへの挑戦という視点を持って新たなビジネスモデルを考え挑戦することが次への飛躍につながるのだと確信する。本来もっと評価されるべきものは、ここで述べたような経営理念やビジネスモデルやマーケティングの仕組みの完成度、社員の人間力などバランス・シートには載らない「見えない資産」であり、株価や利益、財務だけでなく、それらが一層評価されるようになれば人は育ち、企業不祥事は減少して日本はもっと素晴らしい国になるであろう。

平成20年11月7日